大阪のEssential Store内にある手芸屋、yuge fabric farmに集められた大量の生地。世界中から集められたデッドストックの生地たちは、活躍の場を与えられないまま、破棄される可能性があった。そんな状況を解決し、新しい価値を与えるために始まった活動は何を意味するのか。TODAYFULディレクター吉田怜香とyuge fabric farm川勝裕哉に問う、取り組みの背景と想い。
< 宝探しのようなワクワク感 >
どういった経緯でyuge fabric farmが始まったんですか?
Y:うちのボスは Essential Store を始める前から〈HEALTH〉というブランドをやっていて、僕が入社する10年ほど前から古い生地を使って服を作っていました。その頃から独自の生地の仕入れをしていたんですが、生地だけですごい量になってしまっていて。そこで、知り合いのアパレルの人たちに生地を卸してみたんですが、量が膨大すぎて収集がつかなくなってしまい、事業としてしっかり展開しようと始まったのがyuge
fabric farmです。
R:Essential Storeの一角にyuge fabric farmがあるんだけど、ここは手芸屋さんでもありますよね。ボタンやリボンも売っていて。
Y:そうですね。一般のお客さまももちろんご利用いただけて、生地は10cmから購入可能です。卸し向けに量が多くある生地は兵庫県の倉庫でも管理しているんですが、在庫は少ないけど面白い生地などが、ここに並んでいます。
具体的にはどんな生地があるんですか?
Y:衣類用を中心に、インテリアファブリックや古布、ヴィンテージ、アンティーク等の生地を一つ一つ手に取り、セレクトして集めています。
TODAYFULと出会ったきっかけはなんだったんですか。
Y:日頃からyugeの生地に合いそうなブランドを探しているんですが、2年ほど前に、ちょうどTODAYFULで「愛とは。」というテーマのビジュアルを公開していて。それを見た時に、自分たちがレスキューした生地をTODAYFULチームの皆さまなら大切にしてくれそうだと思って。でも実は2年前にメールした時は返ってこなくて(笑)。
R:え、知らなかった!メール見逃しがちで(笑)。それもあって今回はDMしてくれたんだ?
Y:そうなんです。怜香さんのインスタに直接DMを送って、今に繋がった流れです(笑)。
R:諦めないでいてくれてよかった!
怜香さんはyuge fabric farmやEssential Storeは知っていたんですか?
R:yugeは知らなかったんだけど、Essential
Storeはとても好みなので元々フォローしていて、私自身は古着が好きだし、インテリアや車、時計もビンテージのものを愛用しているほど、身の周りに古いものがあることの方が自然。だから、大阪に行く機会があれば行きたいなとチェックしていた店だった。
Y:Essential
Storeをフォローしていただいているのは知っていたので、うちにも興味持ってくれるだろうなと思っていました。実現までには少し時間がかかりましたが、その間に僕自身も成長できたし、お店としても2年前より広くなったタイミングだったので、良かったと思っています。
今回の企画にあたって、生地のピックアップはどのように決めたんですか?
R:うちのオフィスで初めてお会いした時に、キャリーケースいっぱいに生地を持って来てくれて。直感で好みだったし、生地の持つ力を感じた。他にないのは勿論なんだけど、それ以上に現行品では出回らない手の込んだ織りのものが沢山。TODAYFULの服やムードに合いそう!って。
Y:そうですね。そこから何回か打ち合わせを重ねて絞っていった感じです。
R:今まではメンズブランドに卸していたことが多かったみたいで。その中で、ウィメンズブランドとしてTODAYFULを選んでくれたのは嬉しかったし光栄です。
Y:古くて渋い生地が多いので、メンズブランドのお客さんが多かったんですよね。でもそれがTODAYFULのマニッシュさにはハマると思っていました。
生地選びで難航したことはありましたか?
R:好みがはっきりしているので、みんなでyugeへ実物の生地を選びに来たら、作りたいアイテムがどんどん浮かんだ。厚手の上質なウールの生地は、「ジャケットを作ったら絶対可愛い、欲しい」と思ったし、デザイナーの一人がレースの生地をスカーフにしたら可愛いって私物用で買おうとしていて、「だったらしっかり作って商品化しようよ」とか。やっぱりそういう自分たちが欲しいとか愛用したいって動機が、いちばん大事でお客様にも届いたりするので。
生地をレスキューという言葉が印象的だったんですが、その意味はなんでしょうか?
Y:うちの生地は廃業した生地屋の倉庫やボスの友人ディーラーから依頼があり、集まってきたものも多くあります。本来ならば、それらは捨てられていた可能性の高い生地たちだと思っています。それを廃棄させずに助ける、レスキューするっていうストレートな意味合いで使っています。世の中ではSDGsとかアップサイクルとか言われるとは思うんですけど、そういうことはあまり考えていません。結果的に地球にも良いことをしてるのかなとは思っていますが、僕たちはあくまで捨てられる可能性のある生地を救助したいという想いと、格好良さや面白さ、自分たちの元にそれらの生地が来たというストーリーを大切にしています。
怜香さんは服を作る中で色んな生地を見ていますが、今回の生地についてはいかがですか?
R:面白いものがたくさんあって、すごく興味深かった。国内のメーカーさんや展示会では見ないような生地がいっぱいあって、それこそ宝探しをしているようなワクワク感。
Y:僕たちの生地は日本の生地が7割くらい。残りの3割はインポート物。時代や国によって色んな傾向があり、現在のコストでは作れない挑戦した生地や、配色の面白さ等、時代背景が色濃く出た生地が多めです。それと20年続けているアパレルでの経験値と、Essential
Store的な空間を意識した存在ある生地を基準に選んでいます。
基準が設けられているんですね。
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Y:今の時代に糸がない、機械がないから生産できないなど、今はないものというのも一つの基準にしています。だからこそ、懐かしさがあったりするんですよね。例えば、シャツ生地だったら70〜80年代に播州で作られていた播州織というものがあります。播州織は海外へ輸出していたので、海外の古着に多く播州織が使われていたり。
R:普段、古着屋さんで見つけて可愛いなって思うムードの生地がここにはある。それを今、自分が着たいシルエット、ディテールに落とし込めるのは魅力ですよね。
Y:物作りの過程で古着のサンプリングがあると思いますが、それを当時の生地で作れるので、新しいのに懐かしさを表現できるのは強みだと思います。
R:一緒に訪れたスタッフたちと、個々に好きな生地を2つずつピックして今回のプロダクトに採用したり。仕事という意識よりは、趣味の延長のような感覚で、好きなものと向き合う時間でした。
本当に宝探しだったんですね。中には生地の在庫がなく、5着しか作れないものがあるって聞いた時は驚きました。今回の企画は何型あるんですか?
R:ジャケットは1型で3種類のウール生地、シャツは4型。あとはレースのスカーフ。生地によってTODAYFULで定評のあるデザインに落とし込みました。生地の在庫尺がそれぞれ違うので、物によって作れる数もバラバラで、多くても100枚とかかな。
Y:ジャケットは3種類の違う生地で作っているんですが、ウールの産地である尾州の生地で、シャツは西脇の生地を使用しています。今回は全て、とても上質な国内の生地が選ばれていて、普段から物作りをされているチームならではのセレクトだなと思いました。
R:枚数は限られるけど、手にとってくれた人にとって、この服を大事にしようと思える理由の一つになればそれも素敵だなと。スペシャルなプロダクトなので、それぞれの風合いを楽しみながら永く愛用してもらえると嬉しいです。
photo : Kai Naito
text : Yu Yamaki
edit : Ai Ishida
graphic design : Kei Koganemaru