The old makes the new.

2025 SPRING / SUMMER ARCHIVE COLLECTION

半年前、社内検討会の場で25 Spring&Summer コレクションについて、過去に作ってきたデザインのアーカイブのみでコレクションを構成すると発表があった。今回の取り組みは、単なる復刻や定番品という言葉では表現できない。過去のものづくりへの自信と、トレンドを意識しながらも常にベストを尽くしてきたという自負から来るものだろう。ディレクター吉田怜香のブランドとしての姿勢とものづくりの意図について。

今回のコレクションを作るに至ったきっかけは何ですか?

R:海外出張でのタクシー移動中、ぼんやり景色を眺めながら、次はどういう服を作ろうか考えていた時に、「もっと消費されないデザインを作っていきたい」という思いが強く自分の中に浮かんで。それこそ、ここ数年は TODAYFULでも自分がずっと着続けたいと思えるものは何年も続けて販売したり、お客様にも受け入れられてきた実感があったのだけど、それ以前は新しいコレクションには新しいものをと、シンプルなシャツでも袖のディテールや襟を少し変えて、新鮮味を足そうと頑張っていた。ブランドを立ち上げてから 4、5 年目まではそうだったかな。別に誰かに言われたわけじゃないんだけど、新しいものを作らなきゃという固定概念が勝手に私の中にあったから。

ものを作る上で、新しいものをという意識があったということですね。

R:当たり前に新しいものが求められていると思っていた。それはお客様からっていうよりも、社内の声や業界のイメージが影響しているかも。アパレル、特にトレンドの移り変わりが早いウィメンズブランドはそういうものだと思ってた。

女性の服はトレンドの移り変わりが激しいし、多様なものが多いですからね。

R:23歳からブランドディレクターとしての仕事を始めて、とにかく現場で目の前のことをこなしながら服を作ってきた。だけど、ブランドを始めて数年が経って、TODAYFULを少しずつ俯瞰で見れるようになってきたんだと思う。お気に入りのシャツなのに、前のシーズンと変化をつけるために、袖のディテールにアクセントをつける。でも、その袖は本当に変えないといけないんだろうか?って。結果的に日常で着づらいものになってしまってないだろうかとも思ったり。その葛藤がよくあった。そうしてるうちに、そもそも新しいものを作らないといけないっていうことを勝手に自分が決めていただけで、そうでもないんじゃないかと思う瞬間があって。自分らしさやTODAYFULらしさは、新しいものを生み出すってことではなく、自分自身が永く愛せるものを作ることだなって改めて思い直せた。 10周年のインタビューでも話したけど、そもそも私は奇抜でファッショナブルすぎるものよりも日常に馴染むミニマムな服が好きだしね。

自分たちが本当に着たいと思える服が、結果として周りにも永く愛される商品になっていったと。

R:ここ数年は実際にリピートしたり、定番として繰り返し生産する商品も少しづつ増えてきてる。その時もまずは社内からしっかり説明をしてきたつもり。こういう思いや意図があって、前年に引き続き今年もコレクションに加えていきたいという提案ベースで。初期に購入してくださったお客様もたくさんいるから、もう売れないんじゃないかって意見も上がったんだけど、実際お客様からはいい反応がもらえたんだよね。

これまで何年も続けて展開し、定番のように愛されているプロダクトたちの一部。

過去に商品を見ていた人が購入したり、色違いを買い足すってことがありそうですね。

R:そうそう。気に入ったものはもう1色買い足してくれたり、アウターもむしろ2年目、3年目の方がよく売れることもある。目にする機会が多くなって、「あ、やっぱり欲しい」と思ってもらえたり、「去年から欲しかったけどお財布事情が厳しくて、今年はやっと買えて嬉しい!」と言ってもらえたり。そういう声を聞いて、自分がやろうとしていることは間違いじゃないな、と少しずつ自信にもなった。

そういった今までの経緯もあり、今回はついにコレクション(108型)の全てをアーカイブのデザインから作るという思いきった決断に至ったんですね。

R:うん。そこまでを冒頭で話したタクシーの車内で思いついて、降りて歩きながら「こういうのどうかな?聞いたことないし、TODAYFULで出来たら面白くない?」って企画チームに話してた。さすがに全型っていうのは自分でも挑戦だなと思ったけど、ブランドとしてそのぐらいインパクトあることをした方が社内やお客様に自分のものづくりに対する価値観や思いを伝えられる機会になるだろうと思って。もちろん、アーカイブでのコレクションと言っても、過去のものを寄せ集めて同じものを出すということではなくて、ブランドを 10 年やってきた自分たちが今の感覚で改めて見ても「可愛いから着たい!」と思うものをピックアップして、それらのパターンやデザインに愛情を持ち、丁寧に生かして新しいプロダクトに生まれ変わらせてコレクションを構成するという意味。別の角度から言えば、ゼロから新しく作り出したプロダクトは今回はないということでもある。

単純な復刻や再販ということではなく、自分たちのアーカイブをベースにより昇華していったということですね。

R:数年前のものだと、同じ生地は廃盤で使えないケースが出てくるので、今の気分に合う生地に置き換えているし、パターンが同じでも秋冬素材から春夏素材へ変えたことでガラッと印象が変わったものも多くある。あとは、当時はデザインの知識が足りなくてディティールの詰めが甘かった部分などはよりこだわった縫製や仕様にアップデートしていたりする。長くTODAYFULを好きでいてくれるお客さまなら、「あ、この形はあのコートだな」とか「愛用しているボトムの春夏バージョンだな」っていう発見があるかも。社内検討会でも「わー、懐かしい!」とか「あれがこうなったんだ!」って声が上がって楽しかった。

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2022 S/Sコレクションでは光沢のあるシャンブレー生地を使用していたコート。今季はマットの質感でニュートラルな 表情に。カットオフだった襟や裾の仕様も、生地の雰囲気に合わせ今回は上品に仕上げている。

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初期から人気で、毎年完売してきたリネン生地のオーバージャケットは、今期で4年目のリピート。今年は新色のセージとブラウンを追加。生地は群馬の桐生市で織ったTODAYFULオリジナル。

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2023 S/Sコレクションで40年代のスウェーデン軍のスノーアノラックパーカーをサンプリングし、厚みのあるコットン 生地でヴィンテージの風合いやサイズ感も忠実に表現した1着。今季はパターンを生かしたまま、ナイロン素材 にすることでガラリと印象を変えて、他にはない春先にぴったりのプルオーバーに。

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このリーフ柄のジャガード生地を初めてオリジナルで作製したのは2019 F/Wコレクション。当時は右のガウンとボトムの 2型を展開。今季はスタッフのなかで未だに愛用率の高かったガウンはそのまま復刻、同じ生地で新たにキャミワンピースを作製。ワンピースは2024年のDrape Camisole Dressのデザインを採用。

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左のタンクトップは、過去に作った2型のデザインを使用し、それらをレイヤードし1型として仕上げている。右のシャツ とスカートも、それぞれ全く違う年のデザインを用いているが、同じ生地を使用し、セットアップとして仕上げた。

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2022 S/Sコレクションで発売したトートバッグ。当時はエコレザー素材だったが、春先に軽やかなキャンバス生地 に変更。持ち手部分のディティールを追加し、カジュアルになりすぎないアクセントに。

様々な方法でアップデートすることは、僕の中で新しいものな気もするんですが。

R:ある意味新しいものなのかも。でも、私の中では、当時のデザインがあったからこそ生まれた服たちって気持ち。だから過去のアーカイブに敬意を払いたいし、また光を浴びさせられたなって。

今回デザインを採用したのは何年のものからですか?

R:2017年から。でも、それこそ2013年のTODAYFULの1stコレクションから今までの絵型を全てプリントアウトして遡ったの。大量の絵型を小さく切って、カテゴリー別に並べるところから。可愛いなってピックした枚数は今回のコレクションの型数の3、4倍はあったので、まずはじっくり絞っていく作業。選んだもの同士のスタイリングの相性も考えながらコレクションを構成していった。その中でデザインをアップデートする必要がない、良い意味でこれがベストだと思えたものたちも3割ぐらいあるかな。

本質的な部分で自分たちが表現したいことが明確になり、トレンドからスタイルに重心が移行していった。

R:アパレル業界では、大体2月から春夏コレクションが立ち上がって、6〜7月にはもうセールが始まってしまう。 服たちが堂々とプロパーで店頭に並ぶのはたった数ヶ月。ありがたいことに即完売するものもあれば、可愛いのにうまく良さを伝える機会がないままセールになってしまうものも出てくる。セールの有無に関係なくても、シーズン毎の期間ってすごく短いし、良いデザインのものが数ヶ月しか手に取るチャンスがないのがもったいないなと感じていて。でも、世の中には何十年も同じデザインで、長年愛されているものがあるように、TODAYFULの中でも、そのぐらいのものを生み出す気持ちがあって良いんじゃないかと。そういうものはデザインとして消費されてないなと思う。

それを目指してるっていうことですか?

R:名品で勝負っていうにはまだ足りないかも。TODAYFULというブランドを俯瞰で見た時に、消費されないブランドには少しずつなっているんじゃないかなって。ディレクターズブランドとして、「昔流行ったよね」っていう一過性のブランドにならないように成長させていきたいなとは常に思ってる。

今後さらに定番品は増えていく予定ですか?

R:あのコートいいよね、あのシャツいいよねってアイテムが増えてくれたら、それらがTODAYFULを支えてくれる要素になり得ると思う。もしかしたらそれが、本社チームやショップスタッフの誰かである場合もあると思う。プロダクトも人も、それぞれが力をつけていくべきだなと。

今回も数年前のデザインを復刻したものから、それらをアップデートしたものまで展開しますが、同じようにクローゼットにあるTODAYFULの服と新しく買ったものをミックスしてスタイリングするのも怜香さんの中ではありですか?

R:もちろん。特にここ数年は1シーズンで終わる服を作っているつもりはないから、ミックスしながら永く着てもらえたらすごく嬉しい。今回の取り組みを通して、「数年前のものだから」と少し色あせて見えていた服も、 やっぱり良いよねって感じてもらいたいし、まだまだ着れるよって私たちとしても背中を押したい。自分が好きなものは、ずっと好きでいいって。

実際にご自身が何年も愛用しているものもあるわけですもんね。怜香さんだけじゃなくて、スタッフの方も含めて今のものはもちろん着てるけど、それぞれ過去のお気に入りのものも着続けていると。

R:うん。それがいいと思ってる。今回アーカイブをするにあたって店舗と本社スタッフみんなにも気に入って愛用しているものを教えてもらって参考にした。

今回、実際に作ってみてどうでしたか?

R:アーカイブを元にしたから楽だったかと言えば、全然そんなわけでもなく。ただ、好きなパターンを元にしてるので、ファーストサンプルの時点で完成度が高かったのはスムーズだったかな。完成イメージが100%だとして、普段だとファーストの段階で 60%、セカンド修正、サード修正を繰り返しながら100%に仕上げていくような感覚。でも今回はファーストの段階で、70、80%で上がってくることが多かったから、その分さらに細部まで深く考える余裕ができて、ボタンを留めるステッチの入れ方や裏地に挟むパイピングの色まで、120%の完成度を目指せた。

より高い完成度を目指せるってことですね。これは継続していく取り組みなんですか?

R:自分のものづくりの在り方としてはとても心地良いなと思ったから、このやり方も好き。でも全く新しいものももちろん作りたくなると思うし、うまくいいとこ取りをしていければなと思う。変わらずベストなものを提案するという意味で、一つ一つのデザインをより大事にしていきたい。

過去のアーカイブ数が多く、デザインリソースの豊富さが圧倒的な強みになった企画だと思います。熱量を込めて作り続けたからこそ、そのような基盤ができたということなので、ものづくりに真摯に向き合ってきた証拠なんじゃないでしょうか。

R:そう言ってもらえると嬉しい。どのコレクションを公開する時もお客様の反応が気になるし緊張するけど、難しいことは抜きにして、いつも通り単純に「可愛い、着たい」と思うかどうかの目線で判断してもらえたら、それが全てだと思う。2025 SPRING/SUMMER COLLECTIONのヴィジュアル公開は9/17なので、是非お楽しみに!

2025 SPRING SUMMER ARCHIVE COLLECTION

Photo : Ryutaro Izaki
Text : Yu Yamaki