「整然とした未完成。」
DAIKEI MILLSが手がける
TODAYFULのための"公園"について。

2023年3月、Life'sのオフィスであり、TODAYFULのショールームが移転オ-プンしました。その美しい空間の設計を行ったのは、 DAIKEI MILLSの中村圭佑さん。オフィスが生まれた経緯や、これまで言葉で共有されていなかったコンセプト、そして好きな食べ物について。吉田怜香との対談は、様々な方向に広がっていきました。

「怖いよ〜」ってドキドキしながら、こっそり一人で。

吉田 ちょっと久しぶりですね。

中村 3ヶ月ぶりですかね。先日まで、しばらくヨーロッパに滞在していたんです。


- ヨーロッパ、どこを巡ったんですか?


中村 あるプロジェクトがあって、最初にミラノへ。その後にロンドン、スイス、パリと巡りました。大体、2ヶ月と少しですね。


- どんなプロジェクトだったのでしょうか。


中村 僕には、DAIKEI MILLSとSKWATという二つの表現手法があるんですけど、ミラノはSKWATのプロジェクトですね。ミラノ中央駅という、東京駅のような主要な駅があって、その高架下の空間の遊休期間に未来につながる面白い取り組みができないか、という内容です。ミラノの建築チームと一緒に取り組んでいます。


- かなり大規模なプロジェクトですね。クライアントからの依頼を受けて空間の設計をするのがDAIKEI MILLS、自分達が主体となるプロジェクトがSKWAT。そんなイメージでした。


中村 わかりやすく言うとそうです。でも最近はSKWATに依頼をいただくことも多いんですよね。僕らは社会の隙間を「VOID」と呼んでいて、そこに価値転換を起こすというのがSKWATのコンセプトです。


- 面白いですね。


中村 DAIKEI MILLSも含めて、あくまで空間の設計に主軸がありますが、SKWATはいろんな手法を使った表現に挑戦できるプロジェクトなんです。人と人との交わりの中で価値転換を起こせるような活動をしています。


- 怜香さん、今のお話どう感じますか?


吉田 えっ!?

中村 油断してたでしょ(笑)

吉田 話がかっこ良すぎて油断してました(笑)

- 今回、このTODAYFULの新しい空間をDAIKEIMILLSさんに依頼することになったきっかけを教えてください。


吉田 まずこの場所を見つけたんです。地下だけど日が入るし、広さもしっかりあって。今まではお店もオフィスもDIYで、自分主体でやってきたんですよね。外部のチームに設計やデザインを頼むというより、私が「壁は白でここはこうして」ってイメージを伝えながら進めていくような。でも、この規模になると、さすがに誰かにお願いしたほうがいいだろうと。それで、いざ、私の好きなお店を調べてみたら、中村さんがたくさん手がけていることがわかって。表参道の『SKWAT/LEMAIR』、『CIBONE』、清澄白河の『FAAR』など。ちょうど初めて『FAAR』に行った帰り道、ここの内装も好みだなって思って調べたら、やはりDAIKEI MILLSが手がけていて。やっぱり好きなんだ!って運命を感じて、そのまま帰りのタクシーのなかで、ホームページのcontactからメールを1通送りました。


- 誰かの紹介というわけでもなかったんですね!


中村 そういうふうに、contactから連絡をいただくことも多いんですよ。

吉田 返事が来ますように!って祈ってました(笑)わりとすぐに返事をくれて、実際会う時もすごく緊張したな。「怖いよ〜」ってドキドキしながら、こっそり一人で。私からしたら、センスのいい憧れの人なわけで、何を見られるんだろうって、怖いじゃないですか?

中村 いやいや、どっちがですか!(笑)

吉田 でも実際会ったら、とても気さくな方だった。

中村 思ったよりもアホでしたか?(笑)

吉田 仲良くなれそうなアホでした(笑)。まず迎えてくれた笑顔がめちゃくちゃさわやかで。笑うんだ!って驚いたし。フランクな方なんだなって。誌面やネットのインタビュー記事を読んでいてクールな印象だったので、すごいギャップでした。


- 中村さん、お忙しいと思うのですが、仕事の依頼を受ける時の基準はどういったものがあるのでしょう?


中村 有り難いことに、多くの方からお声をいただくんです。長い案件であれば5年、10年とかかるし、短くても、半年とか1年。なので、受けられる仕事には限りがある。
そのなかで、どう判断するかというと、まずは会ってみたいと思うんですよ。内容とか予算とかブランドじゃなくて、この人はどういう人なのか。吉田さんは、お会いして、変な人だったから。

吉田 え!(笑)

中村 それで、ぜひってお伝えしました。正直、ブランドのことは知らなかったんです。ファッションに詳しいわけではないので。でも面白い方だなと思って。


- 変な人ポイントについても教えてください。


中村 きっと、コミュニケーションが得意なタイプではないですよね。

吉田 (笑)私のことよく分かってますね。うまくやれていると思ってたのに。

中村 だからこそ、言葉に嘘がないというか。自分の思いを自由にストレートに表現できるピュアさを感じて、それでやってみたいなと。吉田さんも服を作る人だし、自分に嘘をついて動いていたら、それが自分になっちゃって、作るものも純度がなくなるじゃないですか。そういう部分が自分と共通する気がしたんですよね。

ファッションデザイナーのような
センスのいい人でも、なかなかできない。
空間を捉える力って別なので

- 実際にオフィスがどのように作られていったのか教えてください。


吉田 企画チームが使う大きい机が欲しいとか、ラックがこのぐらい欲しいとか、そういう必要な要素はお伝えして、でもかなりお任せしました。どうなっていくのか、ずーっと楽しみで、視聴者的な感覚でしたね。

中村 建築・設計っていろんなやり方があって、それはクライアントによって変わるんです。きっちり形式的な図面を書いて進めるのが企業型な方法で、吉田さんの場合は、どちらかと言うとそういうことより、物の手触りとか匂いとかフィジカルな部分の対話が必要で。素材のサンプルを見て触ってもらったり、家具屋に一緒に行って、実際に椅子に座ってみたり。そういう体験を重ねていきました。

吉田 DAIKEIMILLSのオフィスには、色々な素材のサンプルがあって、それがすごい楽しくて。この透明な天板のテーブルもオフィスで見て、お願いしたんですよね。

中村 きっと、吉田さんはマクロかミクロかで言うと、ミクロを大切にする人なんですよね。素材の質感とか椅子とかミクロな部分は、吉田さんの審美眼にお任せして。僕らはマクロで見る仕事だから、物や人がどう綺麗に見えるかなど、その器を整えよう、と。

- 進める中で、気づいたこと、面白いと思うことはありましたか?


中村 僕はありますよ。この場所は未完成型で、綺麗に作り込んでいるというより、使う人によってクオリティが変わっていく空間なんです。床の素材をそのまま残したり、壁もこれからアップデートしていけるようになっています。なので、使う人次第なんですが、改めてここを訪れた時、植物の配置とか、全体のコンポジションとか、バランス感が凄まじくよかった。
空間的な能力もある人なんだなってびっくりしました。意外と難しいんですよ。ファッションデザイナーのようなセンスのいい人でも、なかなかできない。空間を捉える力って別なので。

吉田 嬉しいです。私も学んだことはたくさんあって、なかむーの…。


- いつの間にか「なかむー」という呼び方に(笑)


吉田 何回か会っているうちに、「中村さん」から「なかむー」に。それでも怒られなさそうだったので。年齢もかなり上だと思っていたけど、実際は3こ上だと知って、一気に距離が近く感じたのもあり。

中村 僕は、吉田さん、年上だと思っていました。

吉田 それは嫌だ!(笑)私は、日々ここで仕事できること自体がすごく刺激的だし、その中で自分なりに、この空間に馴染んでいくというか、つかめていく感覚があって。たくさん吸収させてもらっています。


- 生活する空間が変わると、感覚も変わりますよね。


吉田 そうなんです。身を置く場所ってすごく大事。TODAYFULは今年でブランド10年目。10年前は、着たいと思う服を単体でイメージしてデザインしていたけど、ここ数年は先に空間だったり女性像があって、そこにどんな服がしっくりくるかを考えるようになりました。そこが変わってきているから、服を作る空間がこんなに素敵になって、より良い服が作れそうだなって。


- この場所を作るうえでのコンセプトなどは?


中村 整然とした未完成。そんなイメージです。使い手が自由にアレンジできるような。そうなると、シンプルな白い空間で、全部がプレーンということになることが多いんですけどそうではなく、今回は「積む、置く、結ぶ、立てる」みたいな原始的な空間の作り方をしていきました。フラットな白い床と、白い物体を並べて置いてあるのとでは、全く違うんです。



- それは、怜香さんだから使いこなせるだろうということですか?


中村 そうです。基本は、良い意味でもう少し乱雑にすると思う。でも、吉田さんの場合、ある程度整っていても、それを使いこなせるだろうと思って、乱雑と整然のバランスを取っています。


- 5年、10年と時間の経過の中で、使われ方によって空間が変わってくる、というようなこともありますよね。


中村 そうなんですよ。設計者の中には、自分のポートフォリオとしても、必要以上に作り込むことがある。僕はそこに興味がなくて、一緒に作るというステップが好きなんです。人の方が好きというか。そういう意味で、吉田さんをはじめとするみんなにとって、ここが「公園」みたいな居心地のいい空間になれば、自由にアップデートして楽しめるんじゃないかなと。「公園」はDAIKEI MILLSとしても、SKWATとしても、中心にあるコンセプトです。



全ての物事には、絶対面白いポイントがあって

- 実際に使ってみてのお気に入りポイントは?


吉田 全部お気に入り。どこにも違和感や嫌な部分がないって幸せですよね。私の場合、自宅の物件を探すときも「すごく好きな部分がある」よりも「違和感ある部分がない」ほうが大事だから。ここはすごく心地良いです。ミックスされた素材のバランスが絶妙で、その組み合わさり方が好きなんだと思います。

中村 割と素材をそのまま使いたいタイプですね。木を加工して工芸的に使うより、木を切ってそのまま、皮がついたまま置いておくくらいが好きなんです。その上で、すごい工業的なものが共存するとか、バランス感が大事ですね。今回は、テーブルや備品も一部造作しましたね。

吉田 テーブルやベンチに使った赤みのつよい木の色は自分だけでは選ばなかった色だと思うので新鮮でした。でも空間が締まって、すごく好きなんです。

- 怜香さんの「聞きたいことメモ」から、たくさん聞けた気がします。


吉田 かなり聞けましたね。あとは、好きな食べ物は?

中村 茄子。

吉田 茄子!? 珍しい。

中村 茄子を焼いたのが一番好きです。生姜と醤油で。

吉田 私はポン酢がいいな。ポン酢がかかってたら全部好き。あとお出汁も。

中村 あーわかるな。それで言うと僕は七味。何にでも入れちゃう。味噌汁もうどんも蕎麦も。

吉田 こういう浅い話をすると、ぐっと親近感がわいていい。あとカラオケも好きだったり。19を歌ってくれるし、インタビューから想像つかないと思うけど、湘南乃風とか。

中村 純恋歌、好きです。

吉田 ぽくないでしょ。そういう一面も知ると、良さが倍増。

中村 全ての物事には、絶対面白いポイントがあるって、そう思っていたほうが世の中が楽しめる。

吉田 いいですね。いいまとめ。


- 最後に、今後やってみたいことを教えてください。


吉田 まずは、たこ焼きパーティーをしたいって前から言っています。


- このオフィスで?


吉田 そうですね。このイケてる空間で。

中村 せっかくご縁があって一緒に仕事をさせてもらったから、これで終わりじゃなくて、仕事とか飲みに行くとか、たこ焼きパーティーとか(笑)、関係性はなんでも良いんですけど、吉田さんが何か考えていて、手伝えるのであればなんでもやりますよって思ってます。

_Profile

中村圭佑 / 「DAIKEI MILLS」「SKWAT」代表

多摩美術大学環境デザイン学科 非常勤講師

1983年生まれ。CIBONE、ISSEY MIYAKE、NOT A HOTEL、LEMAIRE、kontakt など商業空間や公共施設などのプロジェクトを通じ、人と空間の在り方について一貫し考え続けている。2020年からは都市の遊休施設を時限的に占有し一般へ解放する運動「SKWAT」を発足。

吉田怜香 / TODAYFUL ディレクター

1987年生まれ。「TODAYFUL」デザイナー兼ディレクター。東京・大阪・福岡にコンセプトショップ「Life’s」を展開。自身のスタイルブックを5冊刊行し、洗練されたライフスタイルは多くの女性から支持を集めている。オンラインコミュニティ「Ours.」も話題。

Photography / Daisuke Shima
Text / Taiyo Nagashima